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✔留学費用等の返還請求
《みずほ証券事件 東京地裁判決》
業務命令や、個人のスキルアップなど様々な目的で、企業が費用を負担し社内外での勉学等の機会を設けることがあります。
金融業を生業とするY社では、社員育成のためのプログラムが多数ありますが、Xは、一定の基準を満たした入社4年目以降の社員を対象とした公募留学制度に応募し、約3年間の留学を経て帰国、しかし、配属先への不満を感じ約4カ月後に退職(転職)しました。
Y社は、Xとの間で「留学期間中にY社を特別な理由なく退職する場合あるいは解雇される場合、また、留学終了後5年以内に、特別な理由なく退職する場合あるいは解雇される場合には、Y社が負担した留学に関する以下の費用を退職日までに遅滞なく弁済する」との誓約書を交わしていたため、Xに対して留学費用の返還請求を起こしました。
労基法16条では「使用者は労働契約の不履行についての違約金を定め、又は、損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められ、労働者の自由意思を不当に拘束して労働関係の継続を強要することを防止するための規定があり、本件で交わされている誓約書がこれに違反するかが問われました。
本件での留学についてみてみると、まず、業務命令ではなく公募制であることや帰国後の配属先も留学で得た資格等が必ずしも反映されたものではないこと、留学先や履修科目などをはじめ、留学期間中の生活も含め大部分が労働者の自由な意思に委ねられたものであり、むしろ労働者個人の利益となる部分が相当程度大きいものであること、債務免除までの期間も5年で不当に長いとまではいえないこと等も踏まえてみると、Xとの労働関係の継続を強要するものではなく、この返還合意は16条に反するとはいえないと判断。
また、Xは返還に関する十分な説明や熟考する時間もなく署名させられたと主張するが、事前に「費用の返還」についてはガイダンス等で説明され、誓約書と同一内容の文章も署名の一か月前には渡されていることから、Xは内容を理解した上で署名しているといえ、この返還合意はXの自由な意思に基づいたものと認めるのが相当であるとし、留学関連費用3045万円、全額返還を命じました。